つらい過去を持つ複数の人物がインドのガンジス川を訪れては新しい価値観を得る、という流れの複数の物語が同時に進行します。 一件まとまりのない進行に思えますが、この物語の主人公はおそらく美津子であり次いで美津子に関わったキリスト者の大津だと考えるとそんな構成の意味が見えてきます。
美津子の人生には他の人物たちが抱えているような強烈な体験はないように見える反面、彼女の抱えるある種の虚ろさは、著者がそれこそ人生の最大の苦しみだと考えているかのように丁寧に描かれています。他の悩める人々の物語が、ただインドとガンジスによって収束しているのに対して、美津子の物語は作品全体を通してさまよい続け、異端のキリスト者として大津の歩んだ道に触れる度に影響を受けて成熟していくように感じられます。
また、インドで彼らのガイドをつとめる江波や、ことあるごとに軽薄な態度で雰囲気を壊してゆく三條もある意味魅力的に描かれていて、読み応えのある作品です。