酒と女にだらしのない零落貴族のフョードル・カラマーゾフ。彼は幼い3人の息子達の養 育を放り出し、自堕落な生活を送っていた。子供達は召使いのグレゴーリイによって育てら れ、やがて成人する。僧院で暮らし他愛と神の言葉によって生きる末弟のアリョーシャ。金 銭トラブルと女性関係のもつれによって争う父と2人の兄。彼らカラマーゾフ家を中心とし た物語は一つの悲劇を産み、様々な思想と感情を巻き込んでゆく。
『罪と罰』と並ぶドストエーフスキイの代表作です。こちらの方が分量が多く、人間像が 多面的なので、こちらを第一の代表作と見る人も多いようです。文学作品としての評価が高 く、小説家の村上春樹は理想の作品の一つとしてこの『カラマーゾフの兄弟』をあげていま す。
中心となるカラマーゾフ兄弟ととの父親との間に、ある事件が発生するのですが、事件前から事件後にいたるまでの心理描写を徹底的に行い、主人公達の行動の動機や結果からの心境の変化を連続した一つの流れとして緻密に表現します。感情の起伏が激しいので、強い感情や弱すぎる感情などの描写に抵抗のある方にはお薦めできない作品です。3人の息子の価値観がそれぞれ違うので、一面的な描写に偏らずに拡がりがある反面、作品としての統一感を得るのに苦労する作品です。けれど、その起伏や分裂のある状況こそドストエーフスキイにとっての人間理解の現われであることが次第に伝わってきます。このあたりが「総合小説」としての本作の魅力の一つに思われます。
重量感のある作品ですが推理小説のような事件の解き明かしや純粋な愛憎劇など、物語作 品としても完成度が高く、教養小説の枠を超えて楽しめる作品です。